CUBE_SHIRO.GIF - 3,201BYTES【 政治倫理条例シンポジウムのご報告 】


政治倫理条例シンポジウム開催(平成25年10月20日)

去る平成25年10月20日(日),政治倫理・九州ネットワーク主催で政治倫理条例シンポジウムが開催されました。
40名以上の参加をいただき,実効性のある政治倫理条例の拡大に向けて,非常に有意義な内容となりました。
参加いただいた皆様に改めて御礼申し上げます。

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<基調講演>

政治倫理条例とは何か?
−全国の情勢と今後の課題−

九州大学名誉教授

政治倫理・九州ネットワーク会長  斎藤文男

 

 

全国に広がった政治倫理条例

1983年、大阪府堺市に初の政治倫理条例が誕生してから30年。その間に、政治倫理と名の付く条例や要綱は約400の自治体に広がりました。今年、県庁所在市の奈良市で政治倫理条例が制定され、政令指定都市の名古屋市でも条例制定の動きがあります。しかし、なかには、実効性ない“作文条例”や、法的効力欠く内部規程にとどまるものも少なくありません。

私たちはいま、改めて政治倫理条例とは何かを再確認し、その現状と今後の課題を明らかにする必要があります。

政治倫理条例は地方自治体の自主立法です。国には、同様の法律はありません。だから、政治倫理条例は最初から“定型”があったわけではありません。それは、多くの自治体が地方政治の不正・腐敗を防ぐために工夫と努力を積み重ねて、徐々に作り上げたものです。そして今では、実効的な政治倫理条例の定型は、ほぼ固まったといえるでしょう。

この条例の目的は、地方政治の不正・腐敗を防止し、クリーンにすることにあります。いいかえれば、住民の代表者たる公職者がその権限や地位を利用して、自己または特定の者の利益を図ることのないようにするための条例です。

条例の適用対象は、首長・副首長・教育長および議員とするのが通例です。これらの公職者は広範な政治的裁量権をもつゆえに、政治倫理がきびしく問われねばならないからです。

 

 

政治倫理条例の3本の柱

条例の骨格は、3本の柱と3本の梁からなっています。

まず、3本の柱とは、@政治倫理規準および請負契約や業務委託、指定管理者の指定の制限、A資産公開制度、B問責制度です。

@は、自治体の行政運営や議会運営の公正を確保するため、首長等や議員がその職権や地位を不正に利用して、自己または特定の者の利益を図ることを禁じています。たとえば、職員人事への介入禁止、請負等のあっせん禁止、親族会社の請負規制などです。その趣旨が、公職者の政治倫理の確立にあることはいうまでもありません。

ちなみに、地方自治法は、首長等・議員が役員を務める会社が自治体の工事を請け負うことを禁じています。しかし実際には、役員の名義替えによる“脱法受注”が後を絶ちません。この点は、実は、立法者自身が当初から懸念し、親族会社の請負はこの規定の趣旨に反するとして、運用上の注意を促していたのです。だから、政治倫理条例が請負規制を親族会社やダミー会社に広げるのは、法律の趣旨に沿うものであって、なんら抵触するものではありません。

その後、指定管理者制度が自治体に導入されました。これは、住民が利用する公共施設の管理・運営を民間に任せる制度ですが、この指定をめぐっても請負と同様、利権が絡みがちです。だから、指定管理者の指定についても、上述の規制を定める必要があります。この点について総務省は、条例で市長等・議員の親族会社の指定を禁じることは適法と明言しています。

また、政治倫理規準について重要なのは、「職員の公正な職務の遂行を妨げ、又はその職権を不正に行使するよう働きかけない」旨の規定を置くことです。これによって、適正な行政運営を阻害する不正行為を一般的に禁止し、その違反を正すことが可能になるからです。

Aの資産公開については、首長の資産公開条例がすでにあります(都道府県、政令指定都市は議員にも)。しかし、一般市と町村の議員には資産公開はありません。そのうえ、国会議員の資産公開法に倣った現行の資産公開条例は、文字どおりの“ザル法”です。資産報告は本人名義の資産のみ、報告項目も粗雑で、報告の真偽をチェックする仕組みもありません。

政治倫理条例は、こうした現行の資産公開制度の不備を是正し、議員にも資産公開を義務づけるとともに、名義替えによる資産隠しを防ぐため配偶者・扶養子女を含むキメ細かい資産報告を求め、政治倫理審査会の審査に付することとしています。これは、公職利用の私腹肥やしをチェックし、防止するためです。

@Aが不正・腐敗の防止措置であるのに対して、Bの問責制度は、不祥事が起きてしまったあとの“事後措置”です。問責制度とは、首長等・議員が逮捕、起訴、一審有罪受けてもなお職にとどまるときは、住民集会(説明会)で釈明させ、その政治責任を追及する仕組みです。

もっとも、説明会には法的権限はありませんが、その釈明は有権者の選挙の判断材料となり、リコールの事由ともなるでしょう。

 

 

政治倫理条例の3本の梁

しかし、柱だけでは家屋は建ちません。梁が必要です。それが@住民の調査請求権、A政治倫理審査会、B住民の説明会開催請求権です。

@の調査請求権とは、住民が首長等・議員に政治倫理規準や請負規制等の違反の事実があるとの疑いをもったとき、および資産報告に疑義があるときは、政治倫理審査会に調査を求めることができる仕組みです。調査請求は、疑義を証する資料を添えて、首長等にかかるものは首長に、議員にかかるものは議長に対して行われます(議長はこれを首長に送付、首長が審査会に付議)。これは、住民の直接請求(ポピュラー・コントロール 住民統制)と呼ばれるものです。

もうひとつ大事なのは、A政治倫理審査会の設置です。審査会は、有識者と住民からなる公正な第三者機関で、議員や行政幹部は委員になれません。さもないと、公正な調査・審判は期待できず、仲間内で不祥事がもみ消されかねないからです。また、審査会は常設でなければなりません。もし事件が起きたときだけ随時に設置すれば、審査会の設置自体が政争の具となりかねないからです。

ところが、議員のみの政治倫理条例では、当然のことながら、審査会は議員のみで組織されます。これは地方自治法上の「議会の特別委員会」ですから、随時設置で常設ではありません。そのため、審査会の設置や委員の人選をめぐって政争が起こり、審査会がまったく機能しない例がしばしば見受けられます。

したがって、首長等・議員が対象の政治倫理条例を制定し、審査会を地方自治法上の「執行機関の附属機関」として首長のもとに設置する必要があります。そうすることによって、審査会は政治倫理の“お目付役”として、政治倫理条例の実効性を担保することが可能になるからです。

Bの住民の説明会開催請求権は、刑事事件を犯した首長等・議員の政治責任を住民自身が問うもので、これもポピュラー・コントロールのひとつです。

政治倫理条例の骨子は、以上のとおりですが、私たちは、これを成文化した「モデル条例」を提案しています(政治倫理・九州ネットワーク事務局のHPに掲載。URL http://www.seirin.gr.jp e-mail k-net @seirin.gr.jp なお、詳しくは拙著『新版・政治倫理条例のつくり方』自治体研究社、2006年刊を参照)

 

 

政治倫理条例の現状と課題

ところで、全国的にみて政治倫理条例の現状はどうか。今後の課題は何か、がきょうのシンポジウムのテーマです。このあと、政治倫理条例に深く関わったパネラーの実践的な報告と発言をうかがいますが、その前に、私の方から概括的なお話をしておきましょう。

まず、現状を一言でいえば、政治倫理条例は広まったものの、まだまだ不十分だということです。条例のない自治体もなお多く、法的効力のない要綱や実効性を欠く“作文条例”も少なくありません。また、立派な条例はあっても、政治倫理審査会がきちんと働かず、住民も陰で噂はしても調査請求権を積極的に行使しないため、条例が有名無実化しているところもないではありません。

今後の課題は、立法と運用の両面にわたります。前者は、よりよい条例の制定・改正であり、後者は、審査会の運営の適正化と、住民の調査請求の活性化です。

まず、条例の制定・改正にあたって、留意すべき主な点を挙げておきます。

政治倫理に関する要綱を条例化すること。

● 政治倫条例は、議員だけでなく、首長等をも適用対象とすること。

● 政治倫理審査会は、有識者・住民からなる第三者機関として、首長のもとに常設すること。

  政治倫理条例違反の疑いがあるときは、住民は(市長または議長を介して)政治倫理審査会の調査を請求する権利が保障されること。

  審査会は、条例違反の有無を調査・審決するだけではなく、違反者の処分について勧告権をもつこと。

  首長とともに、議員の資産公開を政治倫理条例で定めること。

  資産報告は、配偶者・扶養子女の資産を含め、報告項目を詳細にし、証明書を添付するとともに、審査会がこれを審査し、その結果を公表すること。

  請負契約等の規制について、首長等・議員が役員をしている会社だけではなく、親族会社やダミー会社にも規制を広げること。また、指定管理者の指定についても、同様の規定を設けること。

条例の運用面については、細々とした実務的な問題が多々ありますが、肝心なのは次の2点です。それは、審査会の調査・審決の適正化と、住民の調査請求の活性化です。

審査会の委員が議員だけだったり、政治倫理法制に無理解な、ヤル気のない“有識者”だったりしたため、審査会が機能不全に陥っている例も現にあります。そうならないためには、弁護士会や大学の推薦を得るなどして、誠実で有能な委員を選任する工夫も必要でしょう。

また、調査請求をした住民が議員から脅迫まがいの圧力を受けたり、それを恐れて調査請求を思いとどまる例もなくはありません。そうした政治風土を正していくのは、住民の自治意識の高まりと「われらが選良」にふさわしくない公職者を排除する主権者の行動です。

政治倫理条例の「初心」はここにあり、住民の不断の監視と参加がこの条例を生かすのですから。


<集会アピール>

本日、私たちは、政治倫理条例シンポジウムを開催しました。今年は、大阪府堺市で政治倫理条例が初めて誕生してからちょうど30年になります。その間に政治倫理条例は全国に広がり、今では400を越える自治体が政治倫理に関わる条例や要綱を制定しています。それだけでなく、この間に住民の政治倫理に関する意識は格段に高まり、地方政治の不正・腐敗の摘発と防止に政治倫理条例が役立っています。
 しかし、全国的にみると、政治倫理条例の制定は九州など西日本に偏っており、東日本への広がりは十分ではありません。また、政治倫理条例の内容は、私たちが提案する『市民モデル条例』を参考にして、よりよい条例を制定したり改正する動きが出ていますが、他方で、旧態依然の不備な条例のままだったり、市町村合併の際にかえって後退した条例さえ見られます。さらには、政治倫理条例の運用面でも、なお改善されるべき点が多々あります。
 こうした状況から、九州政治倫理・九州ネットワークはもう一度、住民参加と住民監視による政治倫理確立の原点に立ち返り、政治倫理条例の各地への拡大と条例の改善や運用の適正化のため積極的に取り組みたいと考えています。本日の集会に参加された皆さん、クリーンな政治を願う全国の地域住民の皆さんに、心よりご協力とご支援をお願いします。

2013年10月20日
九州政治倫理・九州ネットワーク


平成251021日 西日本新聞(朝刊)より
政倫条例シンポ 運用改善へ議論
福岡市住民ら40人参加

 堺市で全国初の政治倫理(政倫)条例が制定されて30年の節目に合わせ,政治倫理条例の現状と課題について考えるシンポジウムが20日,福岡市博多区のJR博多シティ会議室であった。約40人が参加し,条例の拡大や内容改善,運用適正化に向けて意見を交わした。政治倫理・九州ネットワーク(代表=斎藤文男九州大名誉教授)の主催。
 基調講演では,斎藤名誉教授が政倫条例の成り立ちや趣旨を紹介。地方政治の腐敗防止などを目的に,県内でも9割の自治体が制定するなど,全国約400自治体に広がった一方,実効性のない“作文条例”が少なくない現状を報告。「条例を広げるのと同時に,内容のレベルアップが必要」と指摘した。
 政倫条例と関わってきた元首長や市民,弁護士によるパネル討論もあった。条例制定に取り組んだ元筑紫野市長の平原四郎氏は「実効性のある条例制定と確実な運用,使いこなす市民という三位一体の取り組みが必要」と強調。県内の3自治体で政倫審査会委員を務める市川俊司弁護士は「各自治体の審査委員同士が情報を共有し,スキルアップできれば」と今後の展望を語った。


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